佐世保簡易裁判所 昭和60年(ハ)287号 判決 1985年7月23日
原告
株式会社日豊興産
右代表者
古賀芳則
右訴訟代理人
田島隆久
被告
村川好美
主文
一 被告は原告に対し、金一三万六、四五五円及びこれに対する昭和六〇年三月九日から支払ずみまで年三割六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
一原告は請求の趣旨として「被告は原告に対し、金二〇万円とこれに対する昭和六〇年三月一日から支払ずみまで年三割六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり陳述し、立証として甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし五を提出し、証人田島隆久の証言を援用した。
1 原告は被告に対し、昭和五九年一一月九日、金五〇万円を次の約定で貸し付けた。
弁済期 昭和六〇年四月三〇日
利息 年七三パーセント
利息の支払方法 昭和五九年一二月から毎月末日払い。
元金弁済方法 利息支払いの都度金一〇万円宛五回に分割して支払う。
期限の利益の喪失 右利息の支払を一回でも怠つたとき。
期限後の損害金 年七三パーセント
2 原告は右貸付けのとき、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)三条所定の貸金業の登録を受けていた貸金業者であつて、業として右貸付をした。
3 原告は右貸付けに際し、貸金業法一七条所定の事項を記載した契約書面を遅滞なく、被告に交付した。
4 原告は、被告から別紙(一)入金表記載のとおり、銀行口座振込により弁済を受けたが、被告の請求がなかつたので、原告は貸金業法一八条二項の規定により、同条一項所定の書面を被告に交付しなかつた。
5 被告が支払つた右入金表中の利息、損害金欄記載の金額については、被告はその都度利息又は損害金と指定して任意に支払つた。
6 被告は昭和五九年一二月末日に支払うべき利息の支払を怠り、期限の利益を喪失した。
7 よつて、原告は被告に対し、残元金二〇万円とこれに対する期限の利益を喪失した後である昭和六〇年三月一日から支払ずみまで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二被告は所在不明のため、公示送達による呼出しを受けたが、口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないところ、前掲証拠によると、請求原因事実のうち146の各事実を認めることができる。
ところで、原告は被告の弁済した利息制限法所定の制限額を超える利息又は損害金につき、貸金業法四三条一項の要件を充足するとして、その適用を求めているのであるが、請求原因摘示の4の事実によると、原告は被告に対し、その請求がなかつたので、貸金業法一八条一項所定の書面を交付しなかつたことを自認するので、検討するに、被告の支払つた利息制限法の制限額を超える利息又は損害金が、貸金業法四三条一項・三項により有効な利息又は損害金の債務の弁済とみなされるためには、同法一八条二項の規定にかかわらず、同条一項所定の書面の交付を要するものと解するを相当とする。
けだし、同条同項の書面の交付を要求している法の目的が、弁済の事実のみならず、元利充当関係の事実をも明らかにさせる趣旨であることや、貸金業法一八条二項は、弁済者が同条一項の書面の交付を請求しない限り、貸金業者がこれを交付しなくても刑罰を課せられないというにとどまる規定である、と考えられるからである。
そうすると、本件については貸金業法四三条一項に規定する要件を充足していないことが明らかであるから、その余の点に触れるまでもなく同条同項のいわゆるみなし弁済の主張は失当というべく、従つて、利息制限法所定の制限内に引直して充当計算すると、別紙(二)支払明細表のとおりである。
以上の事実によると、原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官坂本隆一郎)